『七年の夜』 韓国小説
主な登場人物
チェ・ヒョンス 元プロ野球選手・セリョンダムの新保安部長・ソウォンの父
チェ・ソウォン ヒョンスの息子
カン・ウンジュ ヒョンスの妻
オ・ヨンジェ セリョン村の地主・歯科医師
オ・セリョン ヨンジェの娘
ムン・ハヨン ヨンジェの妻
アン・スンファン ヒョンスの部下
あらすじ(ネタばれあり)
死刑囚の息子として誹謗中傷され、親戚の間を転々として育ったソウォン。父親の処刑がせまるなか、ソウォンの周りには不思議なことが起こり始める。
時は変わって、事件の前・・・
二人の父親が事件の中心人物である。一人は地主で歯科医のヨンジェ。裕福で権力もあり、妻と娘のことを愛しているように見えるが、彼は家族を自分の所有物とみなしている。「自分のもの」に対する病的な執着から家族を束縛し、暴力を振るうのが日常。もう一人は保安員のヒョンス。大柄で元プロ野球選手。息子のソウォンを溺愛している。
ある晩、日々のイライラから飲酒運転をしていたヒョンスがヨンジェの娘を車ではね、さらに扼殺してしまう。その時ヨンジェの娘セリョンは、父親からのドメスティックバイオレンスから逃れるため、道路に飛び出したのだった。母親は自分の身を守るためにフランスに逃げており、セリョンは死んでしまう。セリョンの遺体を湖に捨てるヒョンス。この一瞬の誤った選択が破滅への始まりとなった。
一方、セリョンを殺した犯人を捜す父親ヨンジェ。手段を選ばず犯人のヒョンスを追い込む。最後には息子ソウォンをさらって殺そうとする。ヒョンスがとった防衛策が、ダムをからめた未曽有の災害となって付近の住民まで巻き込み、多数の死者を出してしまう。それが事件のあらましだった。ヨンジェは生死不明となる。
ヒョンスの処刑直前、ソウォンはヨンジェが自分の周りにわなを張っていたことを知る。ソウォンはヒョンスからの攻撃を警察と連携して防ぎ切る。そしてヒョンスの処刑は行われた。
テーマは「悪」。家族をモノのように扱い暴力をふるうヨンジェの悪。酒におぼれ、誤った選択の結果として子どもを殺したヒョンスの悪。
ヒョンスの悪癖の元である暴力的な父、ヨンジェに見られる妻や子への支配的な父性。作中にはさまざまな悪が描かれている。悪による行為の結果が積み重なって、より悪い方向へと向かっていくのが読んでいてつらかった。
そして子供たち。
ヒョンスの息子ヒョンスの息子ソウォンは、死刑囚の息子という中傷に耐えて生きるしかなかった。そしてヨンジェの娘セリョンは、暴力に虐げられ、逃げることもできず死んでしまった。セリョンはは自らを置いて行った母を思い、それを見とがめた父に殴られ、逃げた先で見知らぬ男にはねられ、殺された。
殺される前に「パパ」と呼んだ声は、どんな思いから出たのだろうか。 セリョンははたして、大人であるヒョンスが最期に感じたように、それでも人生に「イエス」といえただろうか。
作中で紹介されているV・Eフランクルの『それでも人生にイエスと言う』とセットで読むと、セリョンが少し救われたように思えた。