『魔女だったかもしれないわたし』 エル・マクニコル/著
スコットランドの小さな村で、双子の姉と両親の五人で暮らす自閉の少女・アディ。かつて、「人とちがう」というだけで魔女の烙印を押され処刑されてしまったひとたちがいることを知ったアディは、慰霊碑を作ることを提案しますが、「却下」されてしまい・・・・・
作品の背景
時代 現代
場所 スコットランド
登場人物 アディ 十一歳。主人公。自閉の女の子
キーディ アディの姉。アディが一番頼りにしている。
大学生。自閉的。
ニナ アディの姉。キーディとは一卵性ではない。
動画配信をしている。
ジェンナ 幼稚園からの幼馴染。最近疎遠。
エミリー ジェンナの新しい友達。
オードリー ロンドンからの転校生。
マーティ先生 アディの担任。昔キーディの担任もしていた。
アリソン先生 司書の先生。
参考 スコットランドの学年制度
スコットランドではプライマリースクールが7年間、セカンダリースクールが6年間あります。義務教育は5歳から16歳まで。スコットランドの小学校は、日本より1年早く5歳から始まる7学年があり、卒業する年齢は11歳になります。
学校制度 スコットランドでは7・4・2・4制
学校年度 9月~翌年7月
学期制 3学期制 学費 公立:無料
(参考:スコットランドの教育制度 在エディンバラ日本国総領事館)
BBCドラマの映像(英語)
感想
魔女というと、ゲームやファンタジー小説に出てくる妖艶な美女や不思議な魔力を持つ老婆など、幻想的な世界の住人のイメージがありますが、この作品の魔女は、魔女と決めつけられ処刑された女性たちのことです。
私の理解は魔女狩りの対象=キリスト教以外を信じていた人という程度の浅いものだったので、アディが「自分のことかも」と思ったことに驚きました。考えてみると当時「魔女」かどうかを決める基準はいいかげんだっただろうでしょうし、自分が魔女にされないよう、保身のための密告もあったでしょう。そのなかで障がいや病気などの人は魔女扱いされる可能性について思い至らなかった自分に驚きました。
アディは周囲のひとに問いかけ、語りかけていきます。
「パターソンさんは、自閉の人を何人知ってるんですか?」(p85)
「(自閉は)治るもなにも、そもそも直すものなどありません」(p164)
一方で、作中に出てくるふたりのお姉さんや、先生たちをはじめとする大人、同級生もアディに対してさまざまな態度で接します。大人の私に刺さったシーンをいくつか。
「まあ、そうだねえ。メアリーは頭が弱かったし、ジーンは―――」
「その言葉、聞きたくない」
「えっと、その・・・今でいうと、特別な支援が必要な―――」
「わたしみたい。わたしと似てたんです。」
パターソンさんの顔から血の気が引いた。そしてこっけいなくらい、しどろもどろになりながら話しだした。(p80)
「エミリーやほかの子7たちがアディをばかにするのも、マーフィ先生が止めないからよ。先生が許すんだから、やっていいって思うの(p200)」
読んでいると、「あなただったらどうする?」とアディに問われているようでした。自分の中にある無意識の偏見に気づき、また目の前で差別が起こった時にただ見ていることがどのような意味を持つのか、考えさせられます。
また、自閉スペクトラムへの理解が深まりました。恥ずかしながら、定型発達(ニューロティピカル、メルトダウン、スティミング(自己刺激行動)、シャットダウン(追い詰められたような気持になってパニックになる)などの言葉や定義を初めて知りました。
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