『ジェーンとキツネとわたし』
ファニー・ブリット文 イザベル・アルスノー絵 河野万里子訳 西村書店
もとはカナダで出版されたフランス語の本です。
実際手に取ってみると、中がコマわりになっていて、マンガのようです。
袖の部分にある紹介コメントには
「カナダ総督文学賞受賞/気鋭のイラストレーターが描く/繊細なグラフィックノベル」と書かれています。
ウィキペディアによると
グラフィックノベル (Graphic novel) は、通常は長く複雑なストーリーを備えた、しばしば大人の読者が対象とされる、厚い形式のアメリカン・コミックを指す用語である。グラフィックノベルは、オリジナル長編の場合や、オリジナル短編集の場合、過去に発行されたアメリカン・コミックの一連の物語を再収録した一冊の本の場合がある。フランスでは、版型がやや小さくてページ数が多く、シリーズものでない単独作品で、文学的であることを目指すようなものを指す[1]。
コミックナタリーでは、「アメリカでマンガ単行本を指す用語」と説明されている[2]。
他のウェブサイトではエルジェのタンタンシリーズが挙げられていたり、日本のコミックスも入るのでは?との意見もあったりで、厳密に決まっているジャンルではなさそうです。
絵本というより、むしろティーンズ向けの小説のようです。100ページほどありますが、絵が多いおかげで疲れません( *´艸`)
冒頭は主人公の少女の通う学校。町を俯瞰したシーンから始まります。
きょうはどこにも居場所がない
学校の廊下もだめ、校庭もだめ、美術室に続く一番奥の、すこしだけチーズみたいなにおいのする階段もだめ。
“あの子”たちがそこらじゅうにいるから。わたしの悪口をらくがきするあの子たちが・・・
(本文より)
主人公の少女は"わたし"。
タイトル『ジェーンとキツネとわたし』の"わたし"、エレーヌ。
エレーヌは学校でひとりぼっちです。トイレに「エレーヌは体重100キロ」「臭い」なんて悪口を書かれたりしています。以前仲が良かった友達と、何かがあって孤立しているようです。どうにもならない時は本の世界ににげこみます。
ちなみに、エレーヌが読んでいるのは『ジェーン・エア』。現実にある小説です。
『ジェーンとキツネとわたし』の、「ジェーン」は、1847年に発表されたイギリスの小説『ジェーン・エア』の主人公のことです。『ジェーン・エア』は作者シャーロット・ブロンテが30歳のころに執筆した名作です。どんなお話かというと・・・
孤児になった主人公ジェーン。ジェーンは預けられた親戚の家で酷い扱いをうけ、厳しい子供時代を過ごします。ひどい境遇にめげることなく聡明な女性へと成長し、最終的にすばらしい愛を見つける。
この本をエレーヌはお守りのようにカバンに忍ばせています。
学校にいても、家に帰ってでさえも、エレーヌの世界は冒頭の風景のシーンと同じくモノトーン一色。『ジェーン・エア』の世界だけが鮮やかな色であふれています。
そんなエレーヌの学校生活にある試練(?)が訪れます。
キャンプです。
クラスに友達がひとりもいない現状で、これはつらい(/ω\)。
本を読むことでバス中の「ぼっち」をやりすごしたエレーヌが、自分以外の子がグループを作っている時にとった戦術
何かを探しているふりをしてかばんをごそごそする。
つらい。
悪意を持ったからかいを臆面もなく口に出す人と、関わりたくないから見て見ぬふりをする人。自分をとりまいている息苦しさ。まわりの目が気になります。
そして最後に出てくるのが、『ジェーンとキツネとわたし』の"キツネ"。
キツネはキャンプ最終日の夜、テントの外で『ジェーン・エア』を読んでいたエレーヌにあらわれます。嫌なことがあったキャンプの夜、グレーと黒の世界に、赤茶色の小さなキツネがあらわれます。色ってこんなにパワーがあるのですね・・
キツネの登場と同時に、ある女の子がエレーヌの前に現れます。女の子との交流で色のある世界へとエレーヌは帰ってゆきます。
さらに、彼女をいじめていた女の子とも関係の修復の兆しをみせながら。
いじめをのりこえることがメインではなくて、「素晴らしい本との出会い」を経験できた女の子のお話のようにも読めました。
- 作者: ファニーブリット,イザベルアルスノー,Fanny Britt,Isabelle Arsenault,河野万里子
- 出版社/メーカー: 西村書店
- 発売日: 2015/06/20
- メディア: 大型本
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